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 「雪が無いと獲れない猟師」 [狩猟・動物]

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(からやまの狩猟。鹿に遇うまで歩き続ける)
 美山町は由良川に沿って東西に40キロ以上と広く、集落の標高差は200m以上
もある。そんなことで、田歌のある知井地区は大雪地帯として有名だけど、下流の
地区ではほとんど根雪にもならない。
だから同じ美山でも雪の少ない地区の猟師さんから
「知井の猟師は雪がないと獲物(もの)が獲れんでな~~。」
と僕らの地区の猟師たちのことを揶揄されることもあるのだが・・・。

 確かに知井地区では雪があることを前提にした狩猟方法が根付いていて、だから
こそいまだに犬に無線も付けず、犬の鳴き声を聞き、山を縦走する勢子の指示と、
地形を知り尽くし獲物の動きを読む下待ちの勘だけで、獲物を待ち伏せする。
そんな昔ながらのかっこいい?狩猟が成り立ってきた。

 勢子が2名ほど、下待ちが4名ほどいたら勝負が出来る。
山の中を犬と勢子が掻き回し、山全体を下待ちが取り囲み、谷川へ逃げ降りてきた
ところを撃つ。あるいは山の中を走る鹿を僕ら勢子が撃つ。

 だけど知井地区の狩猟者も例に漏れず、つぎつぎと年配の方が引退をし、今では
8名になってしまった。そうして、それぞれに本職もあるので、日に集まる猟師が
3人程度のこともたびたびで、僕らは山に登っても、下待ちの数が足らず、獲物を
取り逃がしてしまうことも多い。
正直なところ、雪がないとさらに条件は厳しくなり、獣の逃走範囲はとても広く、
読みを利かせても、なかなか的中させるのは難しい。

 それでも2月15日までの猟期中は何とか70頭以上の鹿を捕ることができた。 だ
けど2月以降まったくと言うほど雪が降らず、有害鳥獣駆除がスタートした3月の
狩猟は空山(からやま:雪の無い山・猟師言葉)で、獲れない日が続いた。
仕事として成立しないということで、つい先日、知井猟友会としてのグループでの
冬期の狩猟は終了した。

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(お母んのテコと仔犬たち。サンとテッペイは立派に猟犬に育ちました。もう1匹はペット犬?)

 それでは雪の無いところの猟師さんはどうやって獲るのか。

 やっぱり檻やくくり罠といった罠猟が盛んだ。罠猟は動物をいかに騙すかが勝負
なのだが、罠の達人と話していると、獣の習性を知り、行動を読み、手間隙をかけ
て丁寧に仕掛ける事が大切なことはもちろん、踏み跡が多い場所でも「ここならば
間違いない」という適所が見つからない時などは、倒木や、落ち葉を動かして、獣
が歩きたいような道を作って、そこに罠を仕掛けるという。
これは本当に根気の要る仕事で、僕らのようなせっかちな人間にはなかなか真似で
きないな~と思う。少しでも丁寧さに欠けているとたちまち見破られて、罠にはか
からないのだから。

 僕自身も罠の免許も持っているし、くくり罠も作って持っていて、何度かは使用
していくつかの鹿やシシを獲った事もあるのだけど、とにかく仕掛ける作業が面倒
くさくて、つい手抜きをすると、当然獲れず。性に合わず今ではほとんど手をつけ
ていない・・。

 銃による狩猟の場合には、全ての犬に無線の受信機をつけて、ぴーぴーという信
号の強弱でおおよその方向と距離を掴み、車で猟場を移動しながら、獣が里に下り
たところを撃つというスタイル。あるいは自分自身も山に入りながら、犬を入れ、
良く通る獣道に待ち構えて撃つ。
もちろんそれでも山(地形)を知り、獣の動きを予測する勘を磨かないと簡単では
無い。

 いま美山町には若手が育ちつつある僕らの知井班のほかに、40代の専業猟師数
名が中心となって構成する凄腕の狩猟チームがある。
彼らは雪の無い山の猟師さん。
全員が山に上がり、下待ちはいない。
あるときは人間だけで、ばらばらに山に上がり、獲物の寝屋(ねや:寝床のこと)
を取り囲み、忍び足で山の斜面を進み、獲物が見つかれば100m以上の距離でも
スコープで狙い撃つ。またあるときは良く鳴く犬を山へ入れて、獣をかき乱し、逃
走ルートになる広い斜面を予測して、里に逃げ落ちる前にはるか遠くからやはりス
コープで狙い撃つ。そんなことが出来る彼らは一年中狩猟で生計を立てている。
銃の腕は卓越していて、やはり山を歩く足取りは速く、山を、そして獲物(もの)
を知り尽くしている。

 つい先日、年に1回の美山町猟友会全体で協猟という機会があった。彼らのメン
バー4名と僕+数名が山に上がって勢子をし、年配の猟師さんは20名近く下待ち
で猟場を囲むという協猟ならではの壮大?な狩猟だったが、そのときの彼らとのや
り取りの中で、改めて凄さを感じた。

 正直なところ彼ら、特にリーダー格の2人にはまだまだ敵わないなと思う。雪が
ないと獲れない猟師からもう一皮も二皮も剥けるためには彼らがほんとうにありが
たいお手本であり先輩だと思う。

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(それでも解体は続く。)

 実は最近、最新のGPS付きの犬用の受信機を予約した。犬の場所が地図上でピ
ンポイントに分かる優れものだ。昔ながらの狩猟はもちろん自分の中で一生残る、
大切な経験であり、知恵でもある。
だけど今、知井地区には猟師は減り、雪も減った。さまざまな変貌に負けず、猟師
として食らいついていくためには、最新機器も、新しい狩猟方法も、そして飽くな
き追求心も必要だ。

 そして今年、新たに僕らの知井班に若い猟師2名が誕生しそうだ。 



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